鼠わらし物語

[ この本のオーディオブック情報 ]

  • 著者

  • 価格

    216円
  • ナレーター

  • 再生時間

    0時間47分
  • 出版日

    2013/01/29
  • 配信日

    2013/01/29
  • 分割ファイル

    2個
  • ファイル容量

    43.1MB
  • 付属資料

    なし

作品紹介

■賛否両論を巻き起こした衝撃のエンディング!「義」とは何かを問う、書き下ろし時代小説

FeBeで配信中の定期配信番組「新刊ラジオ第2部」の出演者(石橋、金井、山田)がリレー形式で執筆した完全書き下ろしのリレー小説を、なんとオーディオブック化! 書いた本人たちもまさかオーディオブック化に至るとは思っていなかった本作は、開国の香りが漂い始めた頃の江戸の町を舞台にした時代小説です。

最近、「鼠童」と呼ばれる怪盗が江戸の町に出現して話題になっている。彼が盗みに入ったのは8件。大した被害は起きていないものの、なかなかその怪盗を捕えることができない。彼が何を考えているのか分からないと役人たちも舌を巻く。役人たちの愚痴を端から聞いていたよろず屋の清吉はふと、ある疑問が浮かぶ。「俺がやったのは、六つのはずなんだがな……」。

「義」とは何か、清吉の運命とは。そして新刊ラジオ第2部で賛否両論を巻き起こした衝撃のエンディングまでノンストップで聴かせる45分! 矢島雅弘の朗読とともにお楽しみください。

*新刊ラジオ第2部の企画ということで、本作にはそれぞれ作中に入れなければいけない言葉を定義しました。
 石橋→「俺は脱いでもすごいんだぜ」(「私は」「ウチは」など、それに準ずる言葉ならばOK)
 金井→「母上!母上!」(「ママ!ママ!」「母さん!母さん!」など、それに準ずる言葉ならばOK)
 山田→「牛丼か、おごりやがったな」
 これらの言葉がどこで出てくるのか、さらに物語の展開にどんな影響を与えているのかお楽しみください。
*どの分を誰が書いているのか、どこが切れ目なのか推測しながら聴いていただければと思います。


<ちょっとだけ冒頭部分を公開!>

「鼠わらし物語」
作・石橋遊、金井元貴、山田洋介
朗読・矢島雅弘

 今度は百川の両替屋がやられた。
 そう話している声が清吉の耳に飛び込んできた。
 往来に面した腰掛けに座り、行き交う人を眺めながら薄い茶を啜る。団子の味は悪くないが如何せんこの店は茶が薄い。やはりもう少し渋い茶が欲しいところだと、清吉は胸中で文句を垂れた。
 店の奥にちらと目をやると、同心と岡っ引が渋茶を飲んだような顔を突き合わせていた。
「これで八件目だ。どの店子(たなこ)も大した被害じゃねえと笑っちゃいるが、こっちは内心はらわたが煮えくり返りそうな思いだ」
「それにしても奴ぁどういうつもりなんでしょうね」
「それだ。毎度々々、抱えきれないほどの金子(きんす)が詰まった倉に押し入るってのに、盗んでくのはわずかばかりだ。何を考えてやがるんだか……」
 二人は低く唸って口をへの字に曲げた。気にかかる話ではあったが、清吉は素知らぬ顔でもう一口茶を啜った。
「お勤めご苦労様です」
「お。すまねえな、お千代ちゃん。不景気な面ぁ見しちまって」
 渋茶の二人の前に団子を置いて話に加わったのは、この茶屋の看板娘の千代だった。
 年の頃は十七、八といったところだろう。艶やか(つややか)で黒々した髪に雪のように白い肌。武家の娘にも引けをとらない器量だが、気さくで明るい話しぶりが評判になっていた。半年ほど前からこの茶屋で働きだし、それからというもの千代を目当てに訪れる男(おとこ)衆(しゅう)のおかげで店は大いに繁盛している。
「いいんですよ。それにしてもおかしな盗人もあったものですね」
「近頃じゃ、鼠童(ねずみわらし)だなんてそこらじゅうで噂の種になっていやがる」
 同心は忌々しげに団子にかぶりつく。
「鼠童?」
「鼠小僧ほどの大金を盗んでくわけじゃねえからってことさ」団子を頬張る同心の後を岡っ引きが続けた。「それに、これまで盗みに遭った店子は、正直なところあまり評判がよくないのばかりだからな。すっかり人気が出てるのさ」
「ふうん。ずいぶん可愛いらしい通り名がついてるのね」
「はっ。鼠でも童でも盗人には変わりねえ。今に捕まえてやる」
「あら、頼もしい。期待してますよ、旦那」
 千代がそう言って同心の肩を軽く叩くと、先刻までの渋面(しぶっつら)がみるみると緩んでいった。
「この騒ぎで休む間もないから、お千代ちゃんの顔を見るのだけが楽しみになっちまってなあ」
「まあ、嬉しい」
「この界隈じゃ茶屋小町ってんで評判だぜ」
 岡っ引きものびきった蕎麦のように締まりのない顔になっている。
「またそんなお上手言って」
「またそうやって照れるところがいいねえ。江戸中探したってお千代ちゃんほどの別嬪(べっぴん)はいねえからな」
 岡っ引きが幇間(ほうかん)のように千代を持ち上げるのを尻目に、清吉は往来に視線を戻した。
 ふと見ると、団子を平らげた皿の縁にみたらし団子の餡がこびりついているのが目についた。懐からちり紙を取り出して、よく揉んでから拭き取る。
 綺麗になった皿に満足していると、いつの間にか千代が背後に立っていた。
「清吉さん、もう一杯お茶飲んでく?」
「いや、そろそろ戻らないといけねえ。悪いがこいつを捨てといてくれねえか」
「はいよ。また来てね」
 からりとした笑みを見せる千代に丸めたちり紙と勘定を渡し、清吉は茶屋を後にした。
 通りの角を曲がる前に清吉は足を止めて茶屋を振り返った。先刻(せんこく)気にかかった同心の言葉を思い出したからであった。
 百川の両替屋が八件目。
「俺がやったのは、六つのはずなんだがな……」
 そう独り言して、清吉は通りの角(すみ)に消えた。

 身を強ばらせた猫が西日の中でも目を細めることなく清吉を睨め上げ(ねめあげ)ている。清吉は筆を置いて墨を拭いながら、悪くない出来栄えに頷いた。
 清吉の前にあるのは猫(ねこ)絵(え)だ。鼠除けが欲しいというので頼まれたものである。
 清吉は絵師というわけではない。頼まれごとがあればなんでもする。幼い頃からどんなことでも一通りを教わればこなすことができたのである。
 十四の時、両親が流行病(はやりやまい)で亡くなった。頼るような親戚はなかったが、生前の両親は人が良かったため、何かと仕事にはありつけた。
 屑拾い、傘貼り、物売り、人足(にんそく)、失せ物探し。出来ることは何でもやった。あるとき、手慰みで作った根付けが長屋の連中の目に留まり、いくつか作ってやったことがある。手先が器用だったこともあり、櫛(くし)や笄(こうがい)を仕立ててやったりもした。
 そうこうしているうちに、やがて、「よろず屋清吉」として名が知られはじめ、今では生活に困ることはなくなっていった。
 出来上がった猫絵は大きな目が爛々としている。
「鼠が猫を描くとは、可笑しな話だ」
 清吉は小さく笑って、道具を片付けようと立ち上がった。と、その拍子に硯(すずり)から墨が一滴こぼれ落ち、着物の裾に小さな染みが付いた。
「ああ、畜生」
 急いで墨を拭いたが薄い染みは消えず、何度こすっても埒があかない。とうとう清吉は長屋の井戸まで出て、着たままの着物を洗っていると、隣に住む夫婦の女房が水音を聞きつけて顔を出してきた。
「もう日も暮れようって時分(じぶん)に、なにやってんだい」
「裾に墨をこぼしちまった」
「またかい。あんたのそれは病気だねえ。ちょっとくらい汚れたっていいじゃない」
「そういうわけにはいかねえよ。ああ、ようやく落ちた。は、は……はっくしょい」
「濡れ鼠になっちまって。風邪引いても知らないよ」
「こういうのは水も滴るいい男って言うんだよ」
「その変なところがなけりゃあね」
「でも俺は脱いでもすごいんだぜ」
 濡れた着物を絞ろうと腰から上だけをはだけると、女は顔を赤らめ、
「馬鹿なこと言ってないで、早いとこ乾かしなよ」
 と、長屋に引っ込んでいった。
 それにしてもまた鼠呼ばわりか。清吉は苦笑いを浮かべ、鼻をすすりながら空を見上げた。
 気付けば日もすっかり暮れ方となっていた。まだ橙の色が残る空には薄くて広い雲が流れている。その雲間に見え隠れするのは頼りなげな朔(さく)の月(つき)だ。
 ――このぶんなら星も見えず、あと数刻もすれば明かりなしには表を歩けはしまい。「仕事」をするには絶好の夜になりそうだ。
(この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません)

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