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作家朝井リョウ

朝井リョウ

1989年生まれ。岐阜県出身。 早稲田大学に在学中、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年には、『何者』で第148回直木三十五賞を受賞した。直木賞初の平成生まれの作家であり、史上最年少の男性受賞者。現在は会社員として勤めつつ、作家活動を続けている。昨年出版された『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。現在は『別冊文藝春秋』にて、最新作『武道館』を連載中。


インタビュー

2014.09.10主人公は、最後の一行の、その次の一行も生きている



物語を「終わらせた」時点でそれは嘘になる

――昨年ご刊行された『世界地図の下書き』についてお伺いします。こちらの作品が出てから一年が経ちましたが、読者の方からのご反応はいかがですか?

わざわざ感想を寄せてくださる方々は、基本的に良いことを言って下さる優しい方ばかりなので、どの作品でも頂く感想は似ているんです。この作品について他と違うと思ったのは、「こんな話も書くんだ、意外」という感想があったことですね。「泣かせようとして書いたのかと思いました」だったり。こうした感想は、今までの作品ではあまり言われたことがなかったかもしれません。

――『世界地図の下書き』には、感動的なシーンが多いですよね

感動を意識していたわけではなく、むしろ自分の中では静かな、シビアな話を書いたつもりなんです。「泣かせるいい話」を書いたつもりはなかったんですよね。最後もハッピーエンドではないですし。

物語というのは終わらせた時点でどうしても嘘になってしまうんです。読んでいる人は読み終わったその一秒後も生きているし、物語の登場人物だってその後も生き続けていくわけですから。なので、人間を書いている限り、「終わる」ことは嘘なんですよね。ハッピーエンドは特に、完全にフィクションの場合にだけ使える技な気がしますね。

――完全なハッピーエンドではないながらも、この作品のエンディングにはどこか希望のようなものが感じられます。他の朝井さんの作品を拝読していても、そうした希望が最後に見えることが多いように思いますが、これは意図的に残そうとしていますか?

そうしないと成り立たなくなってしまっているから、しょうがなく希望のあるエンディングにしている部分はあると思います。何度も言いますが、小説は書き終わらないもの。主人公は、最後に死なない限り、最後の一行の、その次の一行も生きている。それでも終わらせなくては形にならないから、結局、キレイに終わらせてしまう。せっかくここまで読んでいただいたのに、絶望で終わらせるわけにもいきませんし。このことは、最近いろんな作家の方ともよく話したりしています。

――他の作家さんにも、そういう問題意識をお持ちの方がいらっしゃるのでしょうか?

僕の好きな作家さんに窪美澄さんがいるんですが、窪さんの『雨のなまえ』という短篇集を読んだ時、どれも「簡単に終わらせない話」「最後の一行の次の一行が見えるような話」だと感じたんです。もしかしたら同じことを考えているのかもしれないと思い、窪さんに「これ絶対わざとですよね、小説って終わらないですよね」と連絡してみたら、やっぱり似たような問題意識を抱かれていたようで……小説は、終わらせた途端に全部嘘になるんです。だから僕も、いつも最後のシーンはどうしようか悩んでいます。

現代らしさは、意識しているわけではない

――『世界地図の下書き』もそうですが、『桐島、部活やめるってよ』や『何者』など、現代を一歩引いた目線で切り取って多くの方に共感して頂けるようなテーマを描いているように見えます。

日本人って共感できないものにすごく厳しいなと思うんです。共感できなかったので最後まで読めませんでした、と平気で読むのを中断してしまったりする。でも、共感できなくても面白い作品、むしろ共感できない人物の人生からこそ得られる新しい価値観ってあると思うんですよ。僕は、今まで書いてきた作品が「今を生きている人」に近いものだったので、特に共感というものを求められているという気がしています。だから、そこからわざと離れるようなことはしなくてもいいんじゃないか、とは思っています。

――「現代」や「今」といったテーマは意識されていますか?

実は全然意識していないんです。目についた中で、気になったものを書いている。それが今の時代に特有なものかどうかは場合によります。例えば『スペードの3』では、ある劇団のファンの皆さんが目に留まったのでそれを題材に描きました。だから、これは特に現代を象徴しているわけではありませんよね。単に目に留まったものを書いていった結果、そのうちのいくつかがとても現代的なものになっただけ、という感覚です。

でも、雑誌などで自分のことを紹介して頂くとき、「現代」や「今」という要素を強調した紹介文がつくことがすごく多いんですね。最近、そういう役割を求められていることに少し自覚的になりました。いま連載している『武道館』という長編には、自分なりにその役割を果たそうという気持ちがにじみ出ていると思います。

――今回『世界地図の下書き』で取り上げたテーマについてはどうお考えでしょうか?

『何者』を書いていたときから、他人のミスを許さない世の中になっているということを強く感じていたんです。僕らの世代から、何かミスをしてしまった人は、たとえばネット上で勤め先や住所や家族の写真まで調べられたりする。どんどん逃げ場をなくされてしまう感じがしたんですね。それがすごく気味悪かった。

しかも、それって、今の子供達にとっては「最近の出来事」ではないんです。生まれてきてからずっとそうした状況を普通に見ているということは、人間とはそういうものなんだ、一度ミスをしたら逃げ道なんてなくなるんだと捉えてしまうんじゃないかと。それは怖い常識になってしまうなと思ったんです。そこで、小さな子供たちが自分の手で逃げるという選択をするお話を書きたいと思い、今回の作品で挑戦してみました。

――『世界地図の下書き』はどんな方に読んでほしいと思って書かれましたか?

ターゲットはいつも設定しないで書いています。ただでさえ全然本が売れない時代なので、ターゲットなんて言っている場合じゃないなって……。この本に限らず、とにかく最初はだれでも手にとってもらえれば嬉しいという状態です。その思いは、今でも変わりません。

――『世界地図の下書き』を書く上で、大変だったことは何でしょう?

児童養護施設というものを書くにあたって取材をしたのですが、子どもたちと実際に触れ合うのはすごく無責任な気がしたので、控えました。この一冊を書いたら児童養護施設の話はもう書くかどうかわからないわけですし、自分はずっと児童養護施設に対して問題を提起していく人間でもない。子どもたちに触れ合うのも、言葉は悪いですが作品のためというところがあるので、それはどうしてもできませんでした。だから、職員の方にお話しを聞きに行ったり、見学をさせてもらったりしていました。また、火を使う祭りを実行する仕組みなどを調べることも大変でした。

――執筆の際に気にしていたことはありますか?

子どもたちをできるだけフラットに書こうと思っていました。すごく可哀想な子というふうに見えるのも嫌だし、だからといって無理に可哀そうじゃないように書くのも違うと思ったので、何も考えずただ子どもを書くという気持ちで書くよう努めました。

紙の本は「情緒的なものに訴えたら負けてしまう気が」

――今回の『世界地図の下書き』を始め、様々な著作が電子書籍化されていますが、電子書籍について朝井さんはどうお考えでしょうか?

実は、自分の作品で何が電子書籍になっているのかもあまり把握していないんです。僕はいまのところ電子書籍派ではないので、紙の本との違いはあまりわからないというのが正直なところです。でも、単純に作品に触れてくださる人が増えるのは嬉しいですね。

――『桐島、部活やめるってよ』は映画化もされヒットしましたが、ご自身の作品の映像化については?

『桐島』の映像化は本当に大成功だったと思います。原作をなぞるだけの映像化って、する意味がないじゃないですか。映画版『桐島』は、小説の中の核の部分を残しつつ、大胆に作り変え、さらに映像でしか表現できないシーンや効果をたくさん生み出しています。監督、脚本、キャスト、カメラマン等すべての方々の力が素晴らしい形で集結していると思っています。

――朝井さんはラジオがお好きだというのは有名な話ですが、オーディオブックについてはどう思いますか?

あまりオーディオブックに触れることはないので、イメージがわかない部分もあります。僕自身、文字を読んで想像するのに慣れてしまっているんですよね。でも、やはりラジオとオーディオブックは違うと思っていて。ラジオを聞いているときは、本当に友人と雑談をしている感覚なので、その言葉の裏の意味とか行間を読むそういうことをしなくていいんですよ。無意味な話をしているのを聞くのが楽しいんです。ただ、オーディオブックのように、作者が「意味のあるもの」として書いた作品を音声で聞いた時にどんな風に理解されるのかは、僕にはまだわかりません。

――幼い頃から本に触れてきた朝井さんから見て、最近「本」を巡って何か変わったなと感じることはありますか?

……意外とないかもしれないですね。電子書籍派の人が僕の身近にいないだけかもしれませんが。それに、会社勤めとしていて思うんですが、やっぱり紙ってなくならないよなと。どんな書類でも紙で保管されてるじゃないですか。どんな書類もとりあえず一回プリントアウトはするし。それは本にも繋がるのかなと思います。

――紙の本のほうが、手元に置いておきたくなる?

ん~、でも、そういう情緒的なものに訴えた側が勝つのってフィクションの中だけなんですよね……「地名をひらがなにするしかなかった田舎」みたいな……(笑)。あたたかみにしかプラス要素ないのかと。紙の本も、そういう状態になっているなと危機感を覚えることはあります。

――今後の朝井さんのご予定を教えて下さい。

『別冊文藝春秋』で8月から新連載が始まっています。『武道館』というタイトルで、アイドルを題材にしています。先ほども言いましたが、この話は「現代特有の現象を書くことを求められているのかな」と思いつつ書いています。今の状況でアイドルを書こうとすると、漫画の主人公みたいな「歌って踊るのが好き!そのまっすぐな思いだけで突き進むわ!」みたいなキャラクターって出てこないんですよね。登場人物たちがどこか冷めている。自分たちの名前を検索するし、握手券で売上もわかるし……自分のことを外側から自分で見られるんですよね。「冷めた自意識」みたいなことを書きたいわけではないんですが、現代の、特にアイドルを書こうとするとそうなってしまうことに気が付きました。

その他に、『何者』スピンオフ短編シリーズと、全く別の新しい短編シリーズもはじめていますので、宜しくお願い致します!

――これから朝井さんの作品を読んでみようという方に向けて、何か推したい作品はありますか。

どの作品も書くのが大変だったので一冊に決めることはできないのですが、どれでもいいので、三冊読んで欲しいです。なんてわがまま(笑)。一冊だけ読まれてそれが自分の全部だと思われてしまうと悔しいというか……。だから、『世界地図』も読んでほしいし、『何者』も読んでほしいし、できればもう1冊なにか読んでほしい(笑)。どんな組み合わせでもいいので、三冊読んで頂ければ僕の書いているもの・書きたいものがなんとなく伝わるのではないかと思います。

これから先のことはわかりません。僕自身がどうなるのかもわからないですから。それでも、一人でも多くの方に読んで頂けるように頑張っていきます。



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